2月18日(水)、角川シネマ有楽町にて『トニー滝谷 4Kリマスター版』公開記念舞台挨拶が開催され、主演のイッセー尾形さんと宮沢りえさんが登壇した。21年ぶりの劇場公開にあたり、撮影当時の思い出や作品への思いを振り返る場となった。

4Kリマスターとしてスクリーンに甦った本作について、尾形さんは「村上春樹の原作の力と、市川準監督のマジック、そして共演者の力が重なった作品。それに普遍的なテーマを扱っている」と、世代を超えて愛され続ける理由を分析。宮沢さんも、壁のないセットや緻密に計算されたカメラワークなど、当時としては異例の撮影スタイルに触れ、「行間が詰まったような芝居が印象的で、今までにない現場だった」と振り返った。

本作では西島秀俊さんによるナレーションを軸にしながらも、尾形さんと宮沢さんがセリフを読み上げる場面が重なり、ナレーションと芝居がシームレスにつながる独特の構成が印象的である。この演出は、市川監督から撮影現場で突然指示されたものだったという。尾形さんは「単なる思いつきだったと思う」と笑いを誘い、会場は和やかな空気に包まれた。
当時の現場では、市川監督からのNGが非常に多かったと両者が明かす。レールに乗ったカメラが近づいて撮影し、終わると離れていくという特殊な撮影方法だったため、「カメラが近づくたびにドキドキした」と尾形さん。良いところを見せようとすると「やりすぎ」「作為的」と指摘されることが多く、自然な表現が徹底して求められたという。宮沢さんも「『イッセーさん、いつもの演技を捨てて』という監督の言葉が当時とても衝撃的だった」と当時の戸惑いを振り返った。

話題は、B子がA子の衣装部屋で涙を流す印象的なシーンへ。撮影では一発OKが出て、市川監督が「りえは天才だ」と称賛したというエピソードが披露された。宮沢さんは「このシーンをどう成立させるのか、確かな答えがないまま始まった」とし、「B子がどんな感情で泣くのか自分でも分からないまま本番に入った。監督も何度も撮るつもりでいたし、本人も分からないと言っていた」と当時の状況を振り返る。それを受けて尾形さんは「市川監督は正直な方。分からないものは分からないと言う」と応じ、客席の笑いを誘った。

A子の遺骨を抱え、部屋で静かに涙する場面について、尾形さんは、しばらく泣いていると監督から「もっと泣いて」と指示され、感情を込めると今度はNGが出たというエピソードを披露。「肩を震わせて泣いたが、これまで経験がなく恥ずかしかった」と笑みを浮かべつつ、本作で最も記憶に残る出来事の一つであると振り返った。これまで市川監督作品では一発OKが多かったが、『トニー滝谷』ではNGが続き、試行錯誤を重ねた撮影だったという。

最後に、本作が自身にとってどのような作品か問われると、尾形さんは「数多く出演してきた中でも、とても特殊な映画」と位置づけた。また、思い出したこととして「当時、撮影現場に行く前に腹ばいになって付けたノートには“見えない糸で宮殿を作る。それがこの映画なんだ”という感想を書いた。でも、どうやって演じればいいのかわからない。何か書きたくなる、作りたくなる、そういう映画です」と述懐。
宮沢さんは「自分にとっての原点であり、作品の生命力を感じる。何年先にも残ってほしい一本」と述べ、21年の時を経てもなお色褪せない本作への思いをにじませた。
